エンジニアも中堅になりマネジメントをするようになれば
最低限の会計の知識を持ち、自社がどのような経営体質なのかを知る必要があります。

私も若手の頃は、会計のことについて全く興味がありませんでした。
本業とは関係なく投資の勉強・将来の独立のため会計の勉強を始めたところ、
学んだ会計の知識が本業でも、特にマネジメントを始めた頃から非常に役立ち始めました。
部下が持ってくる投資計画の是非の判断、組織のKPIを決める際の判断基準などにも役立ちますが、
一番は興味と視野が広がること。
数十冊の本を読み勉強した知識の中で、エンジニアとして最低限これくらいの会計の知識があれば、
本業にも活かせるのではないか?という内容を、本記事にまとめてみました。
ぜひ参考にしてみてください。
この記事はこんな方におすすめ
・これから会計を学び始めたい方
・会計とは違う業務だが最低限の知識は欲しい
・エンジニアで新しくマネージャーになった方
この記事はサラリーマン、特にエンジニア向けの記事なので、ここで述べる会計は基本的に企業会計のことであると考えてください。
目次
会計に強くなるメリット
まず始めに経理部署以外で仕事をしているサラリーマンが会計に強くなった場合のメリットを挙げてみます。
会計に強くなるメリット
・会社にいながら経営者目線で仕事ができる
・将来副業や自営をする時に役立つ
・税金や確定申告のことがわかる
・株の投資先を吟味できる
一つ一つ説明はいたしませんが、
サラリーマン、特に規模が大きい会社にお勤めの方は自社の状況をあまり調べたり考えたりすることもなく、日々の業務に追われていたりしませんか?
上から言われた予算がこれくらいだから、
3年で投資回収すればいいと言われているから、
こんな感じで、現在の自社の環境や状況に対して盲目的なスタンスで仕事をすることが習慣になっている人は多いのではないでしょうか?
しかし、会計を知り、自社の経営状態に少しでも興味を持つことで、あなたの仕事へのスタンスは確実に変わります。
その知識をうまく活用できるかどうかは、上司の能力や考え方の影響を受けますが、少なくとも、あなたの行動はすでに良い方向へ変わっています。
仕事への姿勢が変わり、将来どのように働きたいのか思考を整理できたりもします。
税金や投資に強くなれたりもします。
数多くある学び先の中でも「会計」を学ぶことは非常に良い選択肢であると言えます。
会計とは?
「会」は人や物を集めること、「計」は数えること、
会計とは、簡単に言うと「お金や領収書を集めて数えること」
つまりは「お金の流れ(出入り)=経営活動を見えるようにすること」です。
会計(企業会計)には「財務会計」と「管理会計」があります。
財務会計
財務会計は企業外部の利害関係者(株主・投資家・銀行・取引先)に対する報告を目的とした会計です。
会社の名前の元、集めてきたお金をどのように運用しているのかを見えるようにします。
決算をするための会計がこの財務会計です。
後述する財務諸表などが関係するのもこの財務会計となります。
本記事では、この財務会計に焦点を当てて説明していきます。
管理会計
管理会計は企業内部の経営者に対する報告を目的とした会計です。
つまり、経営改善や最適化に活用するためのデータ分析テクニックという位置付けになります。
こちらに関しては、経営企画をする部署、財務や経理の部署に任せておけばOKです。
簿記とは?
会計を理解するためには財務諸表を理解する必要があります。
しかし、ここでは財務諸表の説明に入る前に簿記について説明したいと思います。
2つの簿記
簿記には単式簿記と複式簿記の2つがあります。
単式簿記はお金の収支のみを帳簿に付けます。家計簿などがこの単式簿記に該当します。
それに対し、複式簿記は現金の出入りだけでなく、会社が持っている現金以外の財産(土地・建物といった固定資産や証券など)、そして借金まで集計できるようになる帳簿の付け方です。
複式簿記
複式簿記は取引を複数の勘定科目で記載していきます。
帳簿には左側を借方、右側を貸方として記載していきます。
取引の要素を借方と貸方に分類し、帳簿に記載することを「仕訳」と言います。
難しいことはさておき、下の文字の並びとルールを覚えてください。
借方 貸方
資産 = 負債+純資産
費用 収益
資産・費用が増加したら借方に書きます。
負債・純資産・収益が増加したら貸方に書きます。
資産・費用が減少したら貸方に書きます。
負債・純資産・収益が減少したら借方に書きます。
複式簿記を実務でする必要がない方は、上記のルールさえ覚えておけば十分です。
特に、資産=負債+純資産、これは会計を理解するために重要な式なので絶対に覚えましょう。
例)仕訳した帳簿:仕訳帳

借方が左側、貸方は右側となります。これは決まりで覚えるしかありません。
覚え方は「借り」「貸し」でひらがなの「り」「し」を見ると、
「り」は左側に払って書き、「し」は右側に払います。なので、借方が左で、貸方は右と覚えます。
私の場合はさらに費用と収益もこの覚え方に結びつけて、「し」が右なので、収益が右と覚えています。
「りし」「ひし」と覚えるのもいいかもしれません。
試算表
複式簿記の最終目的は、決算前に決算整理仕訳を完了し、試算表を作成することです。
ここでは試算表という言葉と下図を覚えてください。

この試算表が元となり、(後述する)財務三表である貸借対照表と損益計算書が作られます。
この図を見て、先ほどの
借方 貸方
資産 = 負債+純資産
費用 収益
をもう一度思い出しておいてください。
減価償却と耐用年数
先ほど複式簿記は現金の出入りだけでなく、会社が持っている現金以外の財産(土地・建物といった固定資産や証券など)も帳簿に付けると説明しました。
会計上、固定資産も独特な処理をする必要があります。その処理を減価償却といいます。
下記についても、ざっと知っておいてください。
減価償却:
固定資産の購入費用を使用可能期間にわたって、分割して費用計上する会計処理
耐用年数:
対象となる固定資産ごとに決められた使用できる期間のこと。耐用年数が5年なら、5年かけて減価償却費を計上する
設備などは通常、数年に渡って使うことになります。
使用するであろう期間で按分して費用を計上することで、企業の活動の実態に近づけることができるのです。
財務諸表
会計公準
財務諸表の説明の前に、財務諸表の作り方に関わる、
「会計公準」という前提条件があります。その中で特に重要な3つの前提について説明します。
会計公準
・企業実体の公準
・継続企業の公準
・貨幣的評価の公準
企業実体の公準
会社のお金を個人が使ってはいけないというルール
継続企業の公準
一定期間ごとに決算書をつくるルール
貨幣的評価の公準
貨幣価値に置き換えられないものは、財務諸表に計上しないルール
以上、が会計公準の中でも特に大事な3つになります。
貨幣的評価の公準
このルールがあるため、
・優秀な社員が多い
・企業風土が素晴らしい
などといった企業の強さとなりうる部分は財務諸表には表れません。
この点は注意が必要です。
財務三表
前提として会計公準を説明しましたが、ここからが本番です。
財務諸表には色々な表がありますが、私たち素人が覚えるのは次の3つで十分。
財務三表
・損益計算書:Profit & Loss Statement
・貸借対照表:Balance Sheet
・キャッシュフロー計算書:Cash Flow Statement
先ほど説明した通り、複式簿記の最終結果の試算表から、損益計算書と貸借対照表が作られ、さらに企業の運転資金の健全さを見るためにキャッシュフロー計算書が作られます。
企業の活動は簡略化すると、
①お金を集める
②投資をする
③利益をあげる
になります。
それぞれの活動がそれぞれの帳票に関係しているのを示したのが下図。


中身までは覚えなくて大丈夫ですが、このイメージは記憶しておいた方が良いです。
損益計算書(PL)
損益計算書は、収益から費用を差し引いた利益を把握するための資料です。
企業のある期間(期初から期末の1年)の経営成績を表しています。
英語では「Profit & Loss Statement」というため「PL」とも呼ばれます。

損益計算書では、5つの利益が登場します。
売上高から売上原価を引いた売上総利益、粗利とも言われます。
さらにそこから社員の給料・光熱費・減価償却費など販売費及び一般管理費を引いた営業利益。
営業利益から、営業外収益などを引いた経常利益、ケイツネとも言われます。
そこから不動産の売却、早期退職費用など特別利益、特別損失を引いた税引前当期純利益。
最後に法人税等を引いた当期純利益。
以上5つの利益が損益計算書に出てきます。
見るポイント(PL)
・黒字であるか?
・赤字の場合、理由はポジティブなものか?
・営業利益率は競合と比べてどうだったか?
まずは、黒字か赤字どうかを確認します。
そして次にその内容、黒字の場合でも本業の営業活動で赤字で不動産売却などで黒字になっている企業もあります。
また赤字とはいえ、営業利益は黒字だが、何かの特別損失で赤字になっている場合もあります。
そうなってくるとやはり見るべきは、本業で儲けを出せているか?というところ。
営業利益と営業利益率(=営業利益÷売上高)が見るべきポイントと言えます。
営業利益率は業界により差があるので、競合に対してどうか?という見方で見てください。
貸借対照表(BS)
貸借対照表は企業のある時点(決算時)の財政状態を見るための資料です。
英語では「Balance Sheet」というため「BS」とも呼ばれます。
資産・負債・純資産の3つに分けて表現しています。

資産=負債+純資産
を表しているのがバランスシート
表の左側の資産の部は「お金をどのように投資して(使って)いるか」
表の右側は「お金をどのように集めたか」を示しています。
流動資産はすぐ(1年以内)に換金可能なもの、
流動負債は1年以内に返済しなければいけない負債、
固定負債は1年以上となる長期の負債を表しています。
純資産の部には、資産家や株主から得た資本金とこれまでに会社が稼いだ利益剰余金が入ります。
見るポイント(BS)
・純資産の合計がプラスか?
→債務超過ではないか
・前回と比べ、利益剰余金が増えているか?
・負債と純資産のバランスはどうか?
・流動資産と流動負債の比率はどうか?
バランスシートは企業の健康状態を表しています。
まずは債務超過ではないかは必ず押さえるポイントです。
PLで確認できているなら飛ばしてもいいですが、去年と比べて利益剰余金が増えているか=黒字の確認。
負債と純資産のバランス(自己資本比率)は悪くないか?
流動資産と流動負債の比率(流動比率)はどうか?がチェックするポイントとなります。
自己資本比率は50%あれば安全と言われますが、企業戦略次第なのでこれが低くても好調な企業はいくらでもあります。
ソフトバンクなど攻めの経営をしている企業は15%程度です。
流動比率についても、負債の割合が低い方が安全と考えますが、お金を寝かせるより投資に回した方が攻めの経営をしていて、将来のキャッシュバックが大きくなるという捉え方もできます。
またPLの当期純利益をBSの自己資本や総資産の数値で割った指標も企業の評価に使われることが多いので、知っていると株式投資に役立ちます。
ROE(Return on Equity):自己資本利益率=当期純利益/自己資本
ROA(Return on Assets):総資産利益率=当期純利益/総資産
ROEは投資した資本に対していくらの利益を稼ぎ出したか、
ROAは負債+純資産=総資産に対していくらの利益を稼ぎ出したか、
を示します。
2つの企業を比較してみて、ROAが同じでもROEが高い方の企業は負債をうまく使い利益を大きく出来ているのかもしれません。
このような分析をする時に有用な指標です。
いかに効率的な経営をしているかを重視するアメリカではROEが非常に注目されています。
人間に例えると、PLは年収でBSは資産状況になります。
婚活では、年収(PL)が重要視されていますが、実はBSこそ見るべきポイントだとアドバイスしている会計の本もありました。
いい表現ですね。いくら年収が良くても、負債がいっぱいあると大変そうですね。
余談でした。
キャッシュフロー計算書(CS)
キャッシュフロー計算書は、その名の通り、お金の流れに着目した財務諸表です。
営業活動・投資活動・財務活動の3つの活動に分けて計算します。
この3つの活動は順番こそ違いますが、企業の活動である①お金を集める②投資をする③利益をあげる
と一致します。
Cash Flow StatementでCSです。

企業はかけ(ツケ)で仕入れてかけで売ります。
仕入れる時は買掛金、売った時には売掛金として売買が発生した時点で簿記で仕訳をしますが、
実際に即座に現金の流れが起きるわけではありません。
商品は売ったが現金が入ってくるのは、2ヶ月後だったり、
仕入先から製品の受注を受けたが、製作に3ヶ月、納品後さらに2ヶ月でやっと現金がもらえるということもあります。
このため、お金の流れをしっかり追えていないと短期負債の支払いができずに黒字倒産ということもあります。
このことが、キャッシュフローが一番重要と言われるゆえんです。
見るポイント(CS)
・営業キャッシュフローがプラスか?
・投資キャッシュフローがマイナスか?
・フリーキャッシュフローがプラスか?
営業キャッシュフローがプラスということは本業で稼げていることになります。
投資キャッシュフローがマイナスであれば、しっかり投資にお金を注ぎ込んでいることになります。
任天堂のように時期によってはあえて投資を減らしたりもするので一概にマイナスだけがいいとは言えませんが、
企業の活動が投資をして利益をあげることなので、マイナスが望ましいと考えて良いと思います。
財務キャッシュフローはマイナスであれば負債の返済がしっかりできている状態です。
スタートアップ企業などは、外からお金を借りて商売の規模を大きくしていたりもするので、一概にどちらが良いかは企業の成長段階に依存します。
営業CF(+)投資CF(ー)財務CF(ー)が理想の状態と言われますが、前述したように投資と財務はケースバイケース、
そこで確認しておきたいのが、フリーキャッシュフローです。
フリーキャッシュフロー=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー
これがプラスだと、借金の返済やさらなる投資ができる状態、本業で儲けたお金で投資がしてお釣りがくる状態。
まずはフリーキャッシュフローを確認しましょう。
まとめ
本記事では、
『エンジニアでも最低これだけは知っておきたい会計』と題して、
会計の基本である財務会計・簿記・財務三表の最低限知っておいてほしい内容について説明してきました。
畑違いのサラリーマンが会計の勉強をすることの一番のメリットは
『企業の目的は利益をあげること』と再認識できることです。
これを再認識することができれば、以前より主体的に目の前の業務に取り組むことができます。
よく言われる『経営者目線』で仕事に取り組むことの第一歩が会計を学ぶことなのかなと私は思います。
今回の記事では、知っておきたい最低限の知識のみの紹介です。これがきっかけで会計に興味を持ち、今後も本などから会計を学んでいってくれればと思います。
一緒に頑張りましょう。
これまでに読んだ会計の本で良かったものを順に3冊紹介しておきます。
ご参考にしてください。